2018-01-01から1ヶ月間の記事一覧

似てない遺伝子

彼の手が何も持たないのを見て、 「あ、忘れたな」 と言った。 「……本当に、信用がないんだね」 苦笑しながら、彼は膨らんだ肩掛けバッグを指差す。 前回、私の部屋から彼がアパートまで歩いて帰るのに、 寒すぎるから何か着るものを貸して、と言われたのだ…

雪の日の日記

アパートを出たときは、 空から落ちる白い粒が、髪やコートの上をパラパラとこぼれていく程度だった。 集合時間を二十分過ぎ、寝起きで鼻声の恋人と合流する。 ビルの九階。昼時に足を踏み入れたビュッフェの店は、 平日ということもあってか客はまばらで、 …

そこにいるふたり

今日もまた、恋人は寝た。 彼はアルコールが入るともうダメで、気付けば船を漕いでいる。 缶ビール片手にテーブルに突っ伏して、 フローリングの床に丸くなって、健やかな寝息を立てている。 二人でいて、恋人が寝てしまうたびに、私は怒る。 またか、とお互…

あなたとわたしの袋小路

随分と、変わったものだ。 手は繋いでいても、こちらに寄り掛かる心地よい重さは感じられない。 私の恋人。 「私たち、共依存の時期がたしかにあった」 そう言うと、「うん」 子供のように素直にうなずくので、 あ、自覚はあったんだ、と逆に少し驚いた。 「…

さみしさを知らない

「人を求められる人は大丈夫だよ」 かつて恋人と、もしも二人が別れたら、という話になったとき、 「俺はダメになる」と嘆いてみせる彼に対し 幾度となく言って聞かせた言葉である。 実際別れたときには、彼はすぐに新しい恋人を作ったわけで、 また同じこと…

ポップな恋人

まるで陰と陽みたい。 君が陰で、彼が陽。 私と恋人が一度別れた時、バンドマンである彼はそれをネタに曲を書いた。 「お互いそれぞれの道を歩いていこう そこで誰かと出会い、この気持ちも消える」(要約) 前向きで素直な歌詞を乗せたミディアムテンポのバ…