ハンアンコタとやさしさ
「やっぱり俺アル好き」
ワインボトルを一本開けた頃、ほろ酔いの恋人が言った。
「AL(アル)」とは、元andymori小山田壮平さんらのバンドである。恋人は、小山田さんの作るandymoriの曲も大好きだった。
ALの「ハンアンコタ」という曲を一緒に聴いた。
どうしようもなく、やるせなくて懐かしい、郷愁みたいなものが胸に迫る。
私にとってそれは夕方の、金色に光る商店街の風景。
そこに立つ、何もかもが気に入らない不機嫌面のかつての自分と、何物にもなれない諦念面した今の自分の姿が二重になって浮かんだ。
今の不安定な情緒と相まって、思わず目が潤む。
そんな私を見て彼は、「ね?」と満足そうにほほえんだ。
『きっと君にも色々とあるだろうけど
めげないでいこうぜって僕は歌う』
希望が胸に突き刺さる。
嘘ではない優しさと、信じられるだけの重みが、ここにはある。
「この人たちにしか作れない音楽だよ」
嫉妬と羨望をにじませて、彼は言う。
馴染めないから背を向けて、いじけたままでいることは楽だ。そんなものはどこにでも、そこらじゅうに転がっている。
世界は美しいばかりではない。それでも愛おしいと、思える強さ。
だからこそ、彼らは唯一無二なのだ。
生きづらさの上でたどり着いた希望や優しさは、尊い。
そこに至るまでに、一体どれほどがあったか。
知り得ないその背中に、思いを馳せる。
「今度一緒にALのライブ行こうよ。きっと、とてもいいよ」
うん。頷いて、彼の手を握った。
優しくなりたい。
本物の優しさが欲しい。
自然に、心から、誰かのために何かしたいと思いたい。
押し付けでも、自己満足でもない。
優しさとは、なんだろう。
繋いだこの手のぬくもりだけが、今たしかに実感できるもののすべてである私は、星の瞬きの源を探すように、考え始めた。