恋なしでは生きられない

 「はるちゃんのはまだ恋だよね。俺の方が愛に近い」
 得意げにそう言ってのける恋人を、私は睨みつける。
 
 愛の方がエライのかよ。

 恋と愛とは別物だ。
 恋愛、とひとくくりにされると途端に私は混乱してしまう。
 私は愛がわからない。
 「恋が昇華して愛になる」
 「恋は一人よがり、愛は思いやり」

 「愛」をネットで検索し、ヒットした愛の意味。
 言葉で説明されるイメージとしての愛を、頭では理解できる。
 ただそれを、この身で感じたことがない。自己愛以外。
 こと「無償の愛」に至っては、
 人間離れした、まさに神の御業のように感じてしまう。

 そこに人の心はあるのだろうか。
 自分勝手で、みっともなくて、欲望に忠実。
 恋は毒を含んでいる。
 それに七転八倒する人間の姿を、愛おしく思う。

 恋の、この胸の高鳴りだけが真実だ。
 この身を持って実感できるものをこそ、私は信じる。

 そして私は、
 泳ぎ続けていないと死んでしまう魚のように、
 心が動き続けていないと恋は死んでしまうとでも思っているのだろうか。

 恋人との関係。落ち着いて、安定した状態がしばらく続くと、
 私はまるでそれをぶち壊すかのようなムチャクチャを言い出す。
 このままではいけないと、何かに突き動かされるように、
 二人の間が凪になることに、恐れを抱いているかのように。

 心が動き続けていないと死んでしまうのは、
 私自身なのかもしれない。
 そして私の心をこんなにも揺り動かすのは
 恋の相手である恋人しかいない。

 心を爆発させるための起爆剤を、
 彼の中に探し続けているのかもしれなかった。

 「あなたは大変だね」
 そうこぼすと、
 「まぁ、おもしろいよ」
 と恋人は笑っている。

 「ずっと、私は私の心を、あなたにかき乱していてほしいのかもしれない」
 私にとって、それが生きているということなのかもしれない。